子どもと自然観察もできる! ガーデニングのプロが教えるオーガニックな庭づくり

持続可能な開発目標SDGsが広がりを見せる近年、世界では“オーガニックな庭づくり”が注目されていることをご存知でしょうか? 化学物質を含む農薬などを極力使わずに、植物そのものの力を引き出す手入れを施した庭がオーガニックガーデンです。庭づくりのスペシャリストであり、ガーデンキュレーターとしてご活躍中の小島理恵さんによると、オーガニックな庭は虫や鳥などさまざまな生き物が集まり、共存できる場所でもあるそうです。自宅に生態系の豊かな庭があれば、お子様と自然観察も楽しめますよね。そこで、『はじめてのオーガニックな庭づくり ~植物の力を引き出すガーデニング術』の著者である小島さんに、オーガニックな庭づくりの考え方やアドバイスなどを伺いました。手間がかかりにくくなるローメンテナンスな雑草対策やお子様との自然観察にぴったりな植物などもご紹介します。

ガーデンキュレーター小島理恵のプロフィール
小島理恵 プロフィール
株式会社Q-GARDEN代表

信州大学農学部森林科学科卒業後、大手造園会社に入社。その後、独立し、2011年に株式会社Q-GARDENを設立。庭づくりに関わる多方面の関係者と同時に双方向の調整・仲介をおこない、お客様の理想により近いお庭の提供を目指す日本初のガーデンキュレーターとして活躍中。
2023年2月、著書『はじめてのオーガニックな庭づくり ~植物の力を引き出すガーデニング術』を家の光協会より出版。

ガーデンキュレーターの小島理恵です。化学農薬や化学肥料などを極力使わないオーガニックなガーデニングをコンセプトに、庭の施工や管理に携わるほか、庭づくりのセミナーなどもおこなっています。オーガニックな庭は人や動物にとって安全で、さまざまな生き物が共存する場所です。安心安全な自然のなかで草花を育て、多様な生物を観察することは、子どもにとって貴重な経験となるでしょう。まずはオーガニックなガーデニングに関する基本的な考え方からお話ししたいと思います。

目次
1.オーガニックな庭とは? 農薬や肥料に頼らないナチュラルなガーデニング
2.環境に合った植物を育てる! オーガニックな庭づくりのカギは「適地適木」
3.除草剤を使わない&ローメンテナンスな雑草対策
4.生態系を育むオーガニックな庭で子どもと自然観察
5.ガーデニングのプロが教えるオーガニックな庭づくり まとめ

オーガニックな庭とは? 農薬や肥料に頼らないナチュラルなガーデニング

オーガニックな庭とは? 農薬や肥料に頼らないナチュラルなガーデニング

オーガニックとは、化学的な農薬や肥料に頼らず、自然が持つ本来の力を活かした栽培方法などを指す言葉です。「有機野菜」や「オーガニック食品」など、食べるものについては安全を意識した無農薬・有機栽培の考え方が浸透してきましたが、庭に関してはまだまだオーガニックが一般的とは言えません。しかし、庭は私たちにとって最も身近にある自然です。すぐそばで触れ合える植物も、口に入れるもの同様に安全であるべきだと考えます。とくに子どもやペットは化学物質の影響を受けやすいと言われていますから、農薬に頼らない庭づくりは家族の健康を守ることにもつながるでしょう。

オーガニックな庭は人間や植物、庭に訪れる生き物が共存できる場所

オーガニックな庭では、農薬や肥料などに頼らなくても草花が病気や害虫に負けないような手入れを施します。適切なメンテナンスや工夫によって植物そのものが持つ力を引き出し、生命力あふれる美しい庭を育てるのです。さらに殺虫剤や殺菌剤を使わないことで環境への負荷は抑えられ、虫や鳥などの生き物も集まってきます。人間や植物、そして庭に訪れる生き物が共存できる場所、それがオーガニックな庭です。

サステナブルな点からも注目されている「ナチュラリスティックガーデン」

最近ではオーガニックなナチュラリスティックガーデンも世界で広がりを見せています。ナチュラリスティックガーデンとは、自然に近い状態の植物の姿を、枯れるさまも含めて愛でる庭のことで、何年間も生育と開花を繰り返す「宿根草」が植えられることが多いです。季節ごとに草花を植え替えるのではなく、長期にわたって楽しむことができるサステナブルな点からも注目されています。

環境に合った植物を育てる! オーガニックな庭づくりのカギは「適地適木」

環境に合った植物を育てる! オーガニックな庭づくりのカギは「適地適木」

オーガニックな庭づくりをするにあたって、大切にしていただきたいのが「適地適木(てきちてきぼく)」の考え方です。木や草花にはそれぞれ生育に適した環境がありますので、その植物に合った場所に植えて育てるようにしましょう。適地適木は、植物を育てるときの基本的な考え方ではありますが、生育しやすい環境であれば植物は病気になりにくいので、とくにオーガニックな庭づくりには欠かせないポイントだと言えます。

世界にはヨーロッパやアメリカ、アフリカ、アジアなどさまざまな気候の土地があり、それぞれの地域で植物の分布は異なります。日本でも寒冷地の北海道と亜熱帯の沖縄では気候が変わりますし、乾燥した山の上と湿地や池の近くでは湿度に差があります。お家の庭でも日なたや日陰など、場所に応じて性質の合う植物を植えなければうまく育ちません。自分が住んでいる地域と庭の環境などを踏まえ、育てる植物を選ぶようにしましょう。

近所を歩いてみて公園や住宅の庭などに植えられている植物を観察

適地適木を考慮した庭づくりを始める際は、お家の周辺環境を知ることから始めます。近所を歩いてみて、公園や住宅の庭などに植えられている植物を観察してみましょう。お寺や神社の裏山といった古くからある緑地もチェックすると、その土地に自生する植物の傾向がわかるので、庭に植える植物選びのヒントになるはずです。

植物の生育環境を確認するときは、「日本ハーディネスゾーンマップ」も役立ちます。ハーディネスゾーンとは植物の「耐寒性ゾーン」のことで、上記のハーディネスゾーンマップでは日本の寒さが段階別に分けられています。そのため、お住まいの地域で各植物が越冬可能かの指標になるわけですね。植物は暑さには慣れることができても寒さには順応しにくいため、地域の年間最低気温をもとにつくられたハーディネスゾーンマップは庭の植物選びに役立ちます。日本は3aから12bまでの20のゾーンに分かれているので、自分の住んでいる地域の耐寒性ゾーンを確認したら、インターネットや図鑑などで生育に適した植物を探すと良いでしょう。

植物の原産地を知れば育て方もわかる

植物の原産地を知れば育て方もわかる

環境に合った植物選びは、原産地を知ることも重要です。常緑樹は比較的温暖な地域に分布し、針葉樹は冷涼な地域を好むなど、大まかな特性を知っておくと庭づくりの参考になります。たとえば「オリーブ」は、地中海沿岸の温暖で乾燥した地域が原産となっているため、日当たりと風通しの良い場所が適していることがわかります。日本原産の植物でも特性はさまざまで、「テッポウユリ」は九州南部から沖縄諸島に分布するので高温多湿でもよく育ちます。このように植物の原産地を知ることで、それぞれに適した環境や育て方がわかるわけです。

ホームセンターなどで販売されている花の苗や鉢植えには、原産国や生育環境などが書かれたラベルが付属しているので、購入する際はよくチェックしてみてください。お住まいの地域や自宅の庭の環境に合った植物選びの参考になりますよ。

ポイントをおさえて植物を健やかに育てる

ポイントをおさえて植物を健やかに育てる

環境に合った植物を育てることが、オーガニックな庭づくりにおいて重要なポイントです。そのほか、おさえておくと良いポイントもご紹介しましょう。

●原種に近いものを植える
花や葉の色を美しくするなどの目的で品種改良された植物は、病害虫に弱くなる傾向があります。もともと自然界に存在している原種に近い種類を中心に植えると、薬に頼らなくても手入れがしやすい庭になることでしょう。

●多種多様な品種を植える
同じ品種ばかりを植えていると、病気や虫が発生した場合に庭の植物が全滅しかねません。できるだけ多くの品種を混植してリスクを回避しましょう。いろいろな植物を植えていれば、ひとつの花が枯れたとしても庭全体の見映えは安定します。

●適切な手入れで健全に育てる
オーガニックな庭は過剰な手入れを必要としません。しかし、多年草なら梅雨の前に花殻の掃除、樹木は風通しを良くするための剪定など、病気を防ぐためには必要な時期に適切な手入れをすることが大切です。それぞれの植物の性質を理解して、健全に育てましょう。

●生薬で免疫力アップ
病気や虫の発生を防ぐために活用するのが天然由来成分の生薬エキスです。定期的に散布すると植物は生き生きと育ち、免疫力が高まって虫も付きにくくなります。また、生薬が土に落ちると土壌改良にもつながるので、さまざまな面から植物の生育を助けてくれますよ。

除草剤を使わない&ローメンテナンスな雑草対策

除草剤を使わない&ローメンテナンスな雑草対策

雑草が庭にもたらすデメリットは、見映えを悪くしてしまうことと育てている植物の生育を阻害する点です。病害虫を引き寄せるケースもあるため、対策する必要があります。オーガニックな庭では、当然ながら雑草対策に除草剤は使いません。雑草が小さいうちは手で抜く労力も少なくて済むので、こまめな除草で対処しましょう。根の部分をしっかり抜くことも重要で、小鎌や山菜掘りを使うとさらに負担が減らせます。また、春から初夏にかけては雑草の成長速度が早くなるため、よりこまめな除草を心がけましょう。

庭の雑草を目立たなくするコツ

庭の雑草を目立たなくするコツ

庭を美しく保つためと言っても、頻繁な除草は大変なものです。そこで、雑草を目立たなくする方法もご紹介しましょう。雑草が目立つ庭は、一箇所に単一の品種を植えているケースが多く見られます。いろいろな品種を混植すると、雑草が自然とほかの草花と馴染んで目立ちにくくなりますよ。

葉が地面を覆うようなタイプの植物を植えるのもひとつの手です。「アガパンサス」や「ヤブラン」など、常緑で強健なものを植えると土に日が差し込みにくくなるので、雑草の生育を抑えることができます。地面を這うように育つハーブなどを植えるのもオススメですね。

生態系を育むオーガニックな庭で子どもと自然観察

生態系を育むオーガニックな庭で子どもと自然観察

人や動物にとって安心な場所であるオーガニックな庭は、虫や鳥などさまざまな生き物もやってきます。お子様の自然観察の場にもなり、さまざまな学びが得られるでしょう。植物の成長過程や訪れる生き物を見るだけでなく、葉っぱが少々虫に食べられても植物が育つことや、虫が生きるために植物を食べる必要があることなど、共存関係への理解も深まります。薬剤を使わないことで樹木が病気になったとしても、長生きする樹種であれば次の年には新しい芽が出て復活する姿を見せることも。そうして生態系のナチュラルな姿を観察することで、虫の気持ちを考えたり、植物の立場になってものを見たりなど、お子様の視野も広がることでしょう。

庭づくりのアイデア チョウの集まる「バタフライガーデン」

植物をオーガニックで育てていると、自然とさまざまな生き物がやってきます。お子様と自然観察をしたい場合にどのような植物を植えるかは、環境に合っていれば好みで選んで良いでしょう。庭づくりのアイデアのひとつとして紹介したいのは、チョウの集まるバタフライガーデンです。「サルビア」や「エキナセア」などの蜜源植物を植えた庭は、たくさんのチョウがやってくる華やかな庭になります。病気に強くかわいらしい花を咲かせる「ペンタス」もオススメですね。蜜源植物としてよく挙げられる「ブッドレア」も良いのですが、生育が旺盛で剪定が大変なので、庭が小さい場合や頻繁な手入れが難しい方にはあまり向かないかもしれません。

子どもと一緒に育てるという観点では、実のなる樹木もオススメです。「ブルーベリー」や「ジューンベリー」などを植えると、実を付けたときに小鳥がやってくるので野鳥観察も楽しめます。手入れだけでなく収穫もできることから、お子様が参加しやすいと思いますね。自分で育てた植物を食べられる喜びもあって、良い経験になることでしょう。

ガーデニングのプロが教えるオーガニックな庭づくり まとめ

今回はオーガニックな庭づくりの基本的な考え方と自然観察についてお話ししました。植物の持つ本来の力を引き出すことで、化学的な薬品を必要とせず環境に負荷をかけずに生態系を守っていくのがオーガニックな庭づくりです。近年ヨーロッパや北米でオーガニックな庭づくりはトレンドになりつつあり、フランスではすでに公園や街路樹、家庭園芸での化学農薬の使用が禁止されているほどです。高温多湿な日本では病害虫も多く、完全なオーガニックを目指すことは難しい環境ではありますが、興味を持たれた方はオーガニックな庭づくりに取り組んでいただきたいと思います。私の著書『はじめてのオーガニックな庭づくり ~植物の力を引き出すガーデニング術』では、もっと詳しく庭づくりや手入れの方法、事例などを解説しているので、ぜひ参考にしてくださいね。

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